中村明日美子すぇんせいの作品です。初版は2010年ですから、もう6年も前ですか。僕がBLなんて全く視界に捉えていなかった頃です。自分の視野の狭さに辟易する事この上なしって感じですが、最近は腐女子諸姉が安価でコンテンツを後続に回してくれるとても便利なBookOffシステムを活用し(中古購入とも云う)、どんどん旧タイトルも読んでいますよ。
そんな中でもやはりテンションが上がるのは、いや上がらざるを得ないのは中村明日美子先生の作品、しかも未読本に出合った時です。最近は未読の残りが少なくてなってきて、なかなかそう云った幸せな遭遇を経験する事はなくなってきました。でも、完全に全作品を手に入れたワケではないので、諦めずにBookOffパトロールは続けますよ。
あ、本題に戻ります。
基本情報
「わ…わいせつ罪で訴えてやる!」
堅物メガネ美人刑事・高千穂巧は、一年間追い続けたイケメンたらし犯・七海洋一をついに離島で逮捕した!
このまま手錠に繋いで本庁に連行するはずが、なぜか「蜜月旅行(ハネムーン)」(七海談)になっちゃって!?
大幅描き下ろし★ちょ~受難BLラブコメ決定版!!!
犯人×刑事。ぶらり離島逮捕の旅
感想
表紙を見た時点ではちょっとドウカナーと感じてしまっておりました。なんか物凄ーく地味なんですよね。見開きで裏表紙に何か仕掛けが!?と想像してみましたが、さびれた港町の漁港と大きな空が描かれているだけ。
僕の悪い癖の一つに、カバーのある本は真っ先にカバーを剥いで本体の装丁を確かめる、と云う行為があります。
時々あるんですよね、カバーではサラリとした画面を作っておきながら、一枚皮を捲ると作者が好き勝手ヤってる楽しい本、と云うやつが(ex.重戦機エルガイム[2]ザ・テレビジョンアニメシリーズ2)。
そう云った可能性を看過したくない気持ちで、毎度毎度皮を剥ぐ(違)ワケです。もちろん今作も例外なく。するとありましたありました!楽しい双六が!でも、途中まで内容を確かめて、はたと気が付きます。
「これ……おもっきりネタバレじゃね?」
そう感じて本編に意識を戻し読んでみると、やはり、でした。この事に途中で気が付けた自分グッジョブ。
あっぶねーあぶねー!
好きが高じて隅々迄しゃぶり尽して楽しもうと思うあまり、肝心の作品自体を100%で楽しめない状況を、自ら作り出してしまうトコロでした。
あーそっか。明日美子先生は、全部読み終えた人が何かの拍子に表紙(駄)をアレするみてーな状況を想定されていたのか!こりゃ失礼。明日美子先生のせっかくのサービス精神を無駄にするトコロでした。
ラブコメ作品だったのね!
今更ですが、本作はラブコメです。ストーリーラインはありつつも、基本的にコメディリリーフによって展開スピードを稼ぐタイプですね。攻め受け的には、年下ほんわか・長髪顎鬚不真面目攻めと、年上眼鏡三白眼・真面目刑事受けです。
お、今回は眼鏡くんが黒髪ストレートじゃないのなー。(にこにこ)
そんな事を思いながら読み進めます。あ、ちなみに表紙のカラーイラストは、開始直後1ページ目の場面でした。はっやっ。
結婚詐欺師である七海(ななみ)は、いわゆるバイセクシャル、と云う事になるんでしょうかね。と云っても積極的に男を好きかと云うとそうではなく、年上眼鏡三白眼・真面目刑事受けの高千穂(たかちほ)さんだから、まるっと好きになっていると云う印象です。
高千穂さんは、突っ込まれる側ですが、物語的には突っ込み役です(←)。七海のゆるゆる能天気(風)ボケと、高千穂さんの俺はマトモだ!的理性ツッコミのコメディです。同級生シリーズでもちょくちょく垣間見えた、明日美子先生の静かなるギャグセンスが光りますね。
ただ、かなり七海が万能感ありまして、色々が実は七海の作戦の一部だった的なオチ、ともすればご都合主義的に見える部分は、好き嫌いが分かれるのかもしれませんね。
物語の好き嫌いではなく、カップル設定として。
モテるやつとフラれるやつ
とにかく七海がスーパーマンです。危険な状況でも冷静ですが見た目は穏やかで不真面目に見える感じ。
こんなヤツ、そりゃモテるよねー。
逆に高千穂さんは、最初っから最後までずっとテンパって失敗して流されて、の連続です。そして、体制的・世間的・常識的なルールに従おうとする思考。そんな高千穂さんは、過去に婚約者から指輪を返された経験があります。
…これ、返す
…え どうして…?
巧さんって優しいのね だからいつも私が望むように私が喜ぶように… でも本当はあなたはどうしたの? 本当にあなたは私を結婚したいの?
キっつ。これキっつ。
僕はこんな事を女性に云われたら立ち直るのに20年くらいかかってしまいそうです。 ま、もっと深い傷が残るような離婚を一回してますけどね!アハ!
ともかく、自分と云う主体性の存在を問われての別れは、高千穂さんの心に消えない爪痕を遺したワケです。ただまあ、これはモテない男の典型というワケではないと思うんですよねえ。ある種の人にはウケが悪いだけで。
つまりは、受動的な生き方や性質を愛おしいと感じるような向きの人々にとっては、可愛い存在足りえるんだろうかなぁと思うんですがどうでしょう、奥さん(誰)。
こう云った男性像に価値を与えているよなぁBL界隈は、と思います。カッコつけて、でもスキだらけで、それなのに自分はしっかりしているんだ!と狼狽えながら主張している見た目クールな男性像です。
こんな男性を、女性が可愛い可愛いと愛でるようなケースももちろんあるでしょうし、そんな二人が上手い具合に出会って恋に落ち結婚するケースもあるんでしょう。男側が完全に無自覚で居るか、女性に可愛がられる事を全面的に受け入れられるなら、ですが。
二人の関係性が関係するまでの物語
本作では物語のピークにおいて、高千穂さんが七海から愛でられる事を受け入れ、自らの喪失感を吐露する事で、二人の関係性はクライマックスを迎えます。
半年もほうっておいたくせに!!
感情の高ぶりがつい云わせたセリフですが、こんなの云われたら可愛いですよねー。僕はのんけなので、女子に云われたい感じですけども。
ただBL作品のいいトコロは、自分が男であると自覚しながら同性愛の架空世界に居続けられる事でもありまして、その虚実綯い交ぜ感が醍醐味です。その事を考え空想している間だけの、浮遊感でも云いましょうか。
これは、自分の性が男でありのんけであるが故の楽しみ方のような気もするので、なんだか得した気分です(僕は得した気分になるのが得意なのです)。
物語の最後は、高千穂さんとの約束通り裁きを受けた七海が、刑期を終え出所し二人が再開する場面。一度は女性に婚約指輪を突っ返された高千穂さんでしたが、七海に指輪を贈ります。
俺なりに考えた… 手錠ナシでのつながり方だ 安モンだぞ
こんなん萌えるわ。このセリフを最初に思いついて、話を考えたんじゃないでしょうかね、明日美子先生。ソコをゴールとして向かっていく為の物語だったんじゃあ……?
いや、そうじゃない情報なんかよこさないでくださいよ!僕はそうだと確信して、もうすっかり楽しいんですからね!
その他エピソード
でこの本、別の短編も収録されているんですよね。バカ執事モノ×1編、のんけ男子高生モノ×3編、あなどこ番外時代劇×1編、です。
バカ執事モノ
笑える作品かつ、明日美子先生らしい様式美がうっすら漂っていていいですねー。淫靡さがツンと香りますぞ。ほんっとに明日美子先生は、ぴっちり横分け黒髪三白眼の受けがお好きですの~w
のんけ男子高生モノ
タイトルは「のんのん」「のんのんののち」「のんのんのん」の3本です!んーわっくっぐ!これはもちろん、「のんけ×のんけ」「のんけ×のんけの後」「NONのんけ×のんけ」でしょうな。タイトルが示す通り、のんけ同士で始まった恋愛風の関係が、しっかり恋人同士に発展するショートショート。青臭くて不器用で良いです!しつこいようですが、黒髪三白眼の受けですw。
あなどこ番外時代劇
あなどこて。あ、僕が勝手に云ってるんですけどね。時代劇と云っても江戸ではなく平安の世、みたいです。公家ぽいし。意外とこのまんまでもイケると思われたのか明日美子先生、このあとこの設定でシリーズ化していらっしゃいまして、単行本も1冊発表されていました。あ、もちろん読みましたよ。
もー。あ☆と☆で(呆)。
最後に
なんだか、作品に無関係な事もたくさん書いた気がしますが、まあいいでしょう。この一冊は中村明日美子先生の趣味と願望を解き放った作品と云えそうです。ああそうそう書き忘れましたけど、高千穂さんは、溺れようが寝てようが風呂はいろうが、とにかくずっと眼鏡をかけていますw。外したのは七海に目隠しプレイをされた時だけかも?
いやー羨ましいです。自分の妄想や願望をこんな表現方法でアプトプット出来る技術を持っているなんて。さて、次も明日美子先生の作品ですよ。■■