BL漫画を漁る日々を過ごしている訳ですけども、割り合い最近の作品を多く取り上げて来ました。まあ2000年以降ですね。今回の作品は90年代、BLと云う単語が今程一般化する以前の「JUNE」時代に発表されたものです。ネタバレ上等で書きますのでご注意を。
基本情報
感想
その名も「男子高生」です。発売が1995年07月ですから、今からちょうど20年程前ですね。BLの古典と云えば竹宮先生の「風と樹の詩」ですが初出1976年ですので、そこから数えて大体20年経った頃、と云う事になります。20年毎の変遷を、竹宮ー桃栗ー腰乃、で語るのも面白いかもしれませんね。ま、その件はコッチに置いておいて今回は桃栗みかん先生にフォーカスしてみます。
内容はオムニバスものが3編と、続き物が3話の構成です。全て集英社の「office YOU」誌に掲載されました。絵柄に特徴があり何だか見た事があるような気が……と思っていたのですが、後に少年ジャンプ誌上で「いちご100%」や「りりむキッス」等の作品を連載していた河下水希先生の商業誌デビュー作でした!やーしらなんだー。
桃栗先生は当時、主にJUNE系界隈で作品を発表されていたようでして、本作のように原作付きの漫画が何作か出版されていますね。ライトノベルの挿し絵なども手掛けておられたようです。
BL登場以前と云う事もあり、作品そのもののフォーマットや文法が最近のものとは異なっています。少年同士の恋愛がテーマではあるものの今読むとなんとも不思議な感覚でした。同じテーマやモチーフを取り扱っていながら、こうも表現方法や読み手の感じ方が変わるものかと、なかなか勉強になる経験となりましたぞ。
攻め受けのバリエーションが無い、またはそう云う概念が存在していない?
まず驚いたのは、攻め受けのパターンが総て同じだった事です。物語としては4種、どの物語も同じCPパターンでした。
- 攻め=背の高いイケメン、クールな顔立ち、スラリとした体格
- 受け=女顔の美形、幼い顔立ち、女性に間違われる程の華奢な体格
これは作家の腕の問題である、と云えなくもないわけですが、それもなかなか微妙な判断です。この時代、男が男を愛すると云う表現をするには、愛される側の男を女性化しなければリアリティを獲得出来なかったのではないでしょうか。(あくまで仮説ですが)
女の子みたいに可愛い顔立ちの男の子を好きになる、ってのは厳密に云ってボーイズラブではないんじゃないの?とも思いました。受けの側からすれば、自分が女性的な見た目であろうと、相手はしっかり男の子なので少年を愛する感覚に至っていると云えますが、攻めの側は受けを勝手に女性の亜種として見ていて、少年と云う存在自体を愛しているのではないと感じます。
また、受けの少年達が全員完全に受動的である事も共通しています。
攻めの少年に無理矢理キスさせられたり、弱みを握られてセックスを強要されたりと、基本的に弱い立場として描かれるので、読んでいる時の気持ちが何だかソワソワして落ち着きません。いすれのエピソードも、最終的には恋愛らしき形に発展するので、読後感が悪いと迄はいきませんが。
時代を切り取った意欲作であった可能性
物語そのものにも、同性愛に対する強い拘りや主張が溶け込んでいるような事はなく、シンプルな青春ものと云った趣でした。やはり、時代性の違いが大きいように感じます。同時代をこのジャンルの視点で見てこなかったので、想像でしかないのですけどね。
「風と樹の詩」と比較しても仕方無いのですが、デアタマであんな強烈な作品を発端としてしまった後に、商業誌というメディアで少年愛物語を綴る事はそれなりの勇気が要る行為だったのかなあと想像します。耽美や思想めいたアレコレを一切排除し当時の時代感覚で男子高生の同性愛を描こうとしていた、としたら実は挑戦的な意欲作だっのかも知れません。
90年代は、BLと云うジャンルにとっては大躍進の時代だったようです。様々なBL専門誌が創刊され、ジワジワとその市場の裾野を広げながら存在感を露わにしてゆく過渡期。その成果は2000年代に突入した頃に花開くようですね。この頃の作品は、またいずれ集中的にあさってみたいと思っています。
最後に
なんとなく歴史的資料を観たような気分になってしまいました。新しいものはもちろんですが、古い作品も掘り下げていこうと強く思いました。■■